漫画

曽根圭介の世界!短編名作ホラー「鼻」

久方振りに本棚を覗いてみると懐かしい本があったので紹介します。

読み返してみましたがなかなか面白い。

当時もこの本は世界観と後味の悪さがよく描かれているなと思いましたが、自身も歳を重ねたことによって捉え方が変わり、また違った面白さを感じる事が出来ました。

曽根圭介(そねけいすけ)さんのホラー短編集『鼻』。

調べてみると2007年にこの「鼻」で第14回日本ホラー小説短編賞を受賞。直後、「沈底魚」にて第53回江戸川乱歩賞を受賞。ダブル受賞は史上初の快挙だそう。

僕と同じ静岡県出身なんですね。なんだか誇らしい。

カメX
カメX
この単行本には日本ホラー小説短編賞受賞作「鼻」他、「暴落」「受難」の2編も収録されているんだよ。

ラビットうさぎ
ラビットうさぎ
3編とも違った怖さのあるお話だよね。

ホラーといっても幽霊がでてくるといった類のお話ではなく、不条理・妬み嫉み・人間のいやらしさ、結局生きている人間が1番怖いと思わせるミステリー要素のあるホラーです。

3編とも共通して言えるのは、

「救いがない」「後味が悪い」ということ。

僕は特に暴落という話が好みでした。よくできている。

以下多少ネタバレあり

暴落

人間の価値が株価として誰の目にも見えるようになった世界の話。

かなり救いようのない話ではあるのですが、世界観の作りこみにリアリティーがあり最後までハラハラさせられました。

主人公は一流大学を出てメガバンクに勤めている。いわゆるエリート。

株価はエリート圏をキープしていて順風満帆に見えるのだがちょっとした歪みから主人公の株は暴落して不審者圏まで暴落してしまう。

というあらすじ。

みんなが人に優しくするのも自分の株を上げるため。

ちょっとした歪みというのがまた理不尽なのですが、社会ってこんなもんだよなというリアル感があって読者の不安を煽る煽る。

主人公もプライドが捨てきれずやることなすこと裏目に出てしまう不条理感がまたリアル。

主人公の行動がインサイダー取引の罪や風説の流布の罪といった経済用語とリンクされているのも逸材。そして主人公のみならず周りの行動、状態によっても自身の株価に影響が出てしまうという設定がこの物語の肝になっていると思う。

理不尽なことは多いし、オチはかなり救われないが自業自得とも思える箇所も多々あるので、個人的にはこのオチはしょうがないかなという思いも・・・。

受難

気が付いたらビルとビルの間の狭い通路に片腕を手錠で繋がれ拘束されてしまった男の話。

個人的にこの話が1番胸糞悪かったですね。

最初から最後まで理不尽すぎるのと設定にリアリティがなさ過ぎて感情移入があまりできなかった。

ただ3編の中で1番スッと読む事ができたのもこの話。あまり考えずに読めたというか理不尽すぎて先も読めないので取り合えず読み切ったという感じです。

拘束されてはいるのですが男には助かるチャンスが何回もあります。

そう男の前には人が現れるのです。それも複数人。

普通なら男はこれで助かるはずなのですが、男の前に現れる人物はどいつもこいつも話が通じないおかしな人ばかり。

男の発言は一貫して助けてくれということ、それが無理なら助けを呼んでくれ、せめて携帯電話を貸してくれと無茶なことは一切言っていないのですが相手には話が全く通じない。

そんな状態に僕もイライラしました。

ただ現実社会に「確かにこういう奴いるわ」と思ってしまったのも事実。

読了後、何故話が通じ無いのか1人1人の理由はわかるのですが理解はできない。

理不尽の極みともいえる作品ですね。

ただ最後のオチは3編の中で1番ゾッとしました・・・

今思い出しても気分が悪い、ひょこたんが怖すぎる。

本のタイトルにもなっていて日本ホラー小説短編賞を受賞したお話。

人間たちは、テングとブタに二分されている。鼻を持つテングはブタに迫害され、殺され続けている。外科医の「私」は、テングたちを救うべく、違法とされるブタへの転換手術を決意する。一方、自己臭症に悩む刑事の「俺」は、2人の少女の行方不明事件を捜査している。そのさなか、因縁の男と再会することになるが……。

上があらすじになりますが、ちょっとわかりにくいですね。

「鼻」では二つの物語が交互に展開されていきます。

小説をよく読む方なら察しが付いていると思いますが最後はこの二つの物語が交差します。

1つは架空世界

テング=鼻がある・ブタ=鼻がない

僕らの世界では鼻がある人が大半だがこの世界では逆。

ブタが大勢を占めていてテングは差別により弾圧されている。

ブタでありながら弾圧あれているテングを救いたいと思う医師目線で話が進んでいく。

文だけだと世界観に特徴がありファンタジー色が強い感じを受けるがそんなこともない。

現実世界にもこういう歴史があったよなと思わせる話。

もう一つは

リアル路線。

連続幼女誘拐事件を追う刑事目線。

またこの刑事が変わっていて、暴力的。

この二つがどうつながるんだと思うが読み終わった後は

上手くやられたなといった印象を受けます。

ただ叙述トリックを意識しすぎている感は否めなく少し勿体ないなと感じてしまったのも事実。

しかし3編の中で1番救いがあるのは「鼻」ですね。

良くも悪くも狂いながらでも復讐できたのは鼻だけですから。

「鼻」についてまとめ

何年振りに読み返しましたが、この作者は狂った人を表現するのが上手ですね。

ありえないのだけど実際にあるかもしれないという恐怖、幽霊ではなく人対人の怖さ。

世にも奇妙な物語に似ています。

あまり後味の悪い話が好きではない方にはお薦めできませんが、後味の悪さの中に面白さもあります。

短編なので3つとも読みやすいですし。

秋の夜長に読書は如何ですか?では